頭を打ったことがない人はいません。生後すぐから一生の間、頭を打つチャンスはあります。ということで、脳外科医をしていますと、軽症から重症までの頭部外傷を診ることになります。そんな状況で、時々聞かれることに、打ち所が悪かったか?という質問があります。しかし、脳外科医の間では打ち所が良いか悪いかの話はあまり話題になりません。今回は、打ち所の良し悪しについて書きましょう。
学生時代に受けた頭部外傷の授業では、頭部外傷で特異的な点は、打撲部位だけでなく対側にも損傷が起こるとことです。たとえば、①前頭部を打撲すると、前頭部に損傷が生じる率は93%、後頭部に損傷が生じる率は21%、②後頭部を打撲すると、前頭部損傷は90%、後頭部損傷は17%。③側頭部打撲では、打撲側損傷50%、対側損傷60% ということです。次のステップではもっと複雑な力学が関係した受傷基点が説明されます。要約すると頭部外傷の力学には①受傷状況:打撲した際、頭に加速度が加わらないか(静的力が加わったのか)、加わるか(動的力が加わったか)②接触面積:相手は何か、鈍器か鋭いものか③加わった力の持続時間:一瞬か、持続的か(千分の一秒レベル)④加わった力のベクトル:直線か、回転性か、両方の要素があるか の4点が関係していることです。金槌で殴られた場合は、このような見地から言い換えると、鈍的・静的・直線的外力が一瞬のうちに頭に加わったということになります(金槌による外力は静的外力に分類されます)。これで起きる外傷は、陥没骨折・打撲部位の脳挫傷です。一方、バイク運転手(ヘルメット)が高速度で走行中自爆して転倒し受傷した場合は、ヘルメットをかぶっていたため直撃部に加わった直線的力は干渉され、大した損傷は生まれません。しかし、高速で打撲したため頭は回転し、加速度を伴った直線プラス回転性の力が一瞬のうちに加わります。こうなると頭蓋骨内にある脳は、力の加わった部位だけでなく対側・脳の中心にも損傷が起こります(回転加速度がの影響)。ということで、重症頭部外傷が生じるには、打ち所より、どういう力が加わったかが大切なのです。脳を回転させる力が最も良くありません。
一方で、次のようなデータもあります。これは頭部打撲では、打撲側と反対側に損傷が生じることが多々あることを示しています。
以上から、打ち所が悪い??という質問には、単純な答えはありません。強いて言えば、答えは、関係ありません となります。
要は頭を打たないことが大切です。
平成12年度死因では不慮の事故が第5位です。自分で防げることを行うこと・屋外ではいつも注意深い行動をすることが大切です。バイクではヘルメット(頭に乗っけるだけでなく安全性の認められたものを正しくかぶること)・車ではシートベルトを欠かさないことは言うまでもありません。