2010年6月2日水曜日

脳の話 #7 週末頭痛

休日の朝寝坊、気持ちよいですね。しかし、そうも行かない人がいます。「週末頭痛」と言って、ウィークエンドになると出る頭痛のせいです。私は経験ありませんが、皆さんの中には経験者がいることと思います。

どんな頭痛か?

休日に寝坊した時に出ることが多いようです。怠惰な状況で出るため、脳の怒りと勘違いした人がいるくらいです。決してそうではなく、ストレスが取れた結果の反動と考えられています。ウィークデイはストレス・緊張のため血管が収縮していますが、緊張が緩んだ際にそれまで収縮していた血管・筋肉が緩むことが原因と言われています。片頭痛(拍動性)との関連で記載されていることが多いですが、緊張性頭痛様の痛み(しめつけられる)もあるようです。いづれにしても、休日になると出る頭痛のことです。

どんな人に多いか?

ストレスの多い仕事もしくは生活をしている人に多いといわれています。

誘因は?

(1) 仕事上のストレスだけでなく家庭内ストレスが原因のこともあります(2) 休みの日の寝坊 (3) コーヒーなどカフェイン含有物の取りすぎ (4) アルコールの飲みすぎ などが誘引となります。

(1)(2)は収縮していた血管が緩むことが原因です。(4)はアルコールとその分解産物であるホルムアルデヒドの血管拡張作用が原因です。(3)のコーヒーは、カフェイン禁断が原因です。コーヒーに含まれているカフェインは血管を収縮させ、頭痛に効きます。一方で、コーヒーを平日に5~6杯以上も飲むのが習慣になっている人が週末にコーヒーを飲まずにいると、血管が拡張してしまい、頭痛・吐き気・集中力低下が起こることがあります。これはカフェイン離脱による症状です。これをカフェイン離脱頭痛と呼びます。国際頭痛学会新基準では、下記のように定義されています。

A. CおよびDを満たす両側性 および・または 拍動性の頭痛

B. 2週間を超えて、1日200mg以上のカフェイン摂取があり、それが中断または遅延されたもの

C. 頭痛は最後のカフェイン摂取後、24時間以内に発生し、100mgのカフェインにより1時間以内に軽快する

D. 頭痛はカフェインの完全離脱後、7日以内に消失する

カフェイン含有量の目安は、栄養ドリンク剤50mg・鎮痛薬50mg程度・コー50mg・コーヒー1杯100~150mgお茶1杯50~75 mgです。例えば、コーヒーを1日3杯、栄養ドリンク剤を2本、鎮痛薬を毎日のむと一日500mgのカフェインをとることになります。そして1日500mgを毎日のように摂るとカフェイン禁断頭痛が起こります。

予防は?

寝過ぎや寝不足もいけません。週末頭痛の常習者は、寝坊をしないように気を付けなければなりません。ストレスの原因を確定し、ストレス回避術を身に付けるべきです。コーヒーなどの飲食物にも注意です。巷はカフェインだらけですので、どの飲料にどの程度のカフェインが入っているか知っておいて損はありません。更に前回書いた頭痛を誘発する食べ物・飲み物は要注意です。

2010年5月22日土曜日

脳の話 #6 打ち所が悪いと……

頭を打ったことがない人はいません。生後すぐから一生の間、頭を打つチャンスはあります。ということで、脳外科医をしていますと、軽症から重症までの頭部外傷を診ることになります。そんな状況で、時々聞かれることに、打ち所が悪かったか?という質問があります。しかし、脳外科医の間では打ち所が良いか悪いかの話はあまり話題になりません。今回は、打ち所の良し悪しについて書きましょう。

学生時代に受けた頭部外傷の授業では、頭部外傷で特異的な点は、打撲部位だけでなく対側にも損傷が起こるとことです。たとえば、①前頭部を打撲すると、前頭部に損傷が生じる率は93%、後頭部に損傷が生じる率は21%、②後頭部を打撲すると、前頭部損傷は90%、後頭部損傷は17%。③側頭部打撲では、打撲側損傷50%、対側損傷60% ということです。次のステップではもっと複雑な力学が関係した受傷基点が説明されます。要約すると頭部外傷の力学には①受傷状況:打撲した際、頭に加速度が加わらないか(静的力が加わったのか)、加わるか(動的力が加わったか)②接触面積:相手は何か、鈍器か鋭いものか③加わった力の持続時間:一瞬か、持続的か(千分の一秒レベル)④加わった力のベクトル:直線か、回転性か、両方の要素があるか の4点が関係していることです。金槌で殴られた場合は、このような見地から言い換えると、鈍的・静的・直線的外力が一瞬のうちに頭に加わったということになります(金槌による外力は静的外力に分類されます)。これで起きる外傷は、陥没骨折・打撲部位の脳挫傷です。一方、バイク運転手(ヘルメット)が高速度で走行中自爆して転倒し受傷した場合は、ヘルメットをかぶっていたため直撃部に加わった直線的力は干渉され、大した損傷は生まれません。しかし、高速で打撲したため頭は回転し、加速度を伴った直線プラス回転性の力が一瞬のうちに加わります。こうなると頭蓋骨内にある脳は、力の加わった部位だけでなく対側・脳の中心にも損傷が起こります(回転加速度がの影響)。ということで、重症頭部外傷が生じるには、打ち所より、どういう力が加わったかが大切なのです。脳を回転させる力が最も良くありません。

一方で、次のようなデータもあります。これは頭部打撲では、打撲側と反対側に損傷が生じることが多々あることを示しています。

以上から、打ち所が悪い??という質問には、単純な答えはありません。強いて言えば、答えは、関係ありません となります。

要は頭を打たないことが大切です。

平成12年度死因では不慮の事故が第5位です。自分で防げることを行うこと・屋外ではいつも注意深い行動をすることが大切です。バイクではヘルメット(頭に乗っけるだけでなく安全性の認められたものを正しくかぶること)・車ではシートベルトを欠かさないことは言うまでもありません。


2010年4月22日木曜日

脳の話 #5 寝る子は育つ


睡眠を難しく言うと、「脳を発達させた動物たち重要な機能であり、単なる活動停止の時

間ではなく生存のために欠くことのできない行動生体防御技術である」となります。今回から数回連続で、睡眠に関連した興味深い事項を取り上げます。今回は「寝る子は育つ」についてお話します

睡眠中には、その深さによりさまざまな体の変化がおきています。たとえば、呼吸循環器系 (呼吸・脈・血圧など)、皮膚温と体温、発汗、消化器系、内分泌系、陰茎(陰核)勃起などです。この中で、特に内分泌系の変化は、成長・発達に欠かせません。脳下垂体からはいくつものホルモンが分泌されています。その分泌は24時間周期のリズムと睡眠依存性リズムの2つがあります。

脳下垂体から分泌されるホルモンの代表は成長ホルモンです。背を高くする作用があり、生後1年で25cm、学童期は5cm / 年、思春期は8cm / 年くらい背が伸びます。このホルモンは睡眠依存性リズムが主体で、睡眠が始まると分泌が高まります。生後3~4カ月頃からこの現象は始まり、4~5才以降になると眠りに入るとすぐに分泌が一番多くなります(成人パターンになります)。ですから、小児期の睡眠は、単に体の休息状態ではなく、「成長・発達」にとって重要な役割のある生理現象と考えられます。つまり、良好な睡眠(適切な睡眠リズム・質と量)は小児にとってよい成長と発達をもたらすといえます。

性腺刺激ホルモンも脳下垂体から分泌されるホルモンです性腺刺激ホルモンのひとつである黄体形成ホルモンは、男女とも第2次性徴期になると、睡眠中に分泌が高まりますこのホルモンは女性の場合は、卵巣で排卵をおこさせ黄体を形成させて、黄体ホルモンの分泌を促進します男性の場合は睾丸に作用して男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促進しますテストステロンの血中濃度も睡眠中に増加し、思春期の男子に顕著に認められます睡眠中に多量に分泌される性腺刺激ホルモンと性ホルモンによって、第2次性徴が促進されます性成熟が完了した成人では、昼夜の分泌量の差はほとんどなくなり、一定水準の分泌が維持されるようになります眠ることは「性成熟」にとっても極めて重要なのです

このようなことから「寝る子は育つ」という言葉は理にかなっています。ところで、日本の子どもの睡眠時間を海外の子どもたちの睡眠時間と比べると日本の子供は、世界一寝不足な子どものようですイギリス・フランスでは半数以上の子どもが10時間以上寝ていますが、日本では10時間以上寝ているのは4%に過ぎません。「寝る子は育つ」に逆行した世の中になってきているようで、決してよいことではないと思います。いかがですか?

2010年4月21日水曜日

脳の話 #4 治る痴呆

脳ドックを受けた方から「アルツハイマー病にはなりませんか?」と時々聞かれます。アルツハイマー病は「治らない痴呆」ですから、皆さん恐れているのですね。

ところで「治る痴呆」があることはご存知ですか? 今日は「治る痴呆」についてお話します(表)。

「治る痴呆」を起こす病気 

頭蓋内疾患 慢性硬膜下血腫 ・正常圧水頭症・脳腫瘍・広範な脳血流低下 など

  代謝異常・内分泌異常 甲状腺機能低下症・脱水 など

精神科疾患 うつ病

薬物(副作用) 催眠鎮静薬・抗パーキンソン薬 など

  中毒 慢性アルコル中毒

慢性硬膜下血腫

脳の表面を覆っている硬膜という膜の下に血液がたまり、脳を圧迫します。代表症状は、麻痺・頭痛、吐き気、嘔吐・痴呆症状ですが、高齢者の方は、痴呆症状のみのことがあります。頭を打った後1~2ヶ月してから出ることが多いです。年齢とともに発生頻度が上昇します。局所麻酔で血腫を吸引する手術を受ければ、劇的に改善します。

正常圧水頭症

髄液の吸収不全のため、脳の中にある脳室という部屋が拡大します。その結果、脳が内側から圧迫されます。痴呆・歩行障害・尿失禁が3大症状です。脳外科で髄液短絡術を受けると治ることがあります。

脳腫瘍

 脳腫瘍が原因で人格変化などの痴呆症状が出現することがあります。高齢者の特徴です。手術で治るケースもあります。

広範な脳血流低下

 頚部の頚動脈に強い狭窄があり、脳血流が著明に低下した場合に痴呆症状が出ることがあります。一過性脳虚血(数分で治る脳梗塞)を繰り返し、その後痴呆症状が出ることがあります。狭窄部除去術や、血管のバイパス手術で治ることがあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンが低下すると動作が緩慢になり、精神活動が低下し、痴呆のような状態になります。身体がむくんだり、髪につやが無くなったり、寒がりになったりします。内科の病気です。甲状腺ホルモン剤の投与で改善します。

うつ病

 高齢者のうつ病では、動作が緩慢になり思考が鈍るため、痴呆と紛らわしい状態を示すことがあります。本来は精神科の病気ですが。内科で治療されていることもあります。抗うつ薬による治療で改善可能です。

薬物の副作用

向精神薬、睡眠剤、抗パーキンソン薬など。内科・精神神経科・脳外科から処方されていることが多いです。

慢性アルコル中毒

長期のアルコル依存で、脳が萎縮してしまうことと慢性的ビタミンB群不足、低栄養などが複合して起こります。

高齢者の頭の病気では、痴呆症状が特徴的ですので、私たちは「治る痴呆」を見逃さないように注意しています。見逃せば「治る痴呆」が「治らない痴呆」となってしまいますので、私たちの役目は重大です。低下したインテリジェンスが回復すれば、その後の生活が一層充実することと思いますので。

印象的な患者さんを紹介します。60歳台の男性です。内科から紹介された時は、記憶が悪く痴呆症状が前面に出ていました。経過を奥様から細かく伺うと一過性脳虚血(数分で治る脳梗塞)を繰り返していることがわかりました。いろいろ検査した結果、頚部の頚動脈に強い狭窄がありました。その結果、一過性脳虚血を起こしていただけでなく、長期間に及ぶ広範囲の脳血流低下をが起こり、痴呆症状を呈していました。治療は、手術以外ありませんでしたが、重症の心臓病が元々あり、頚動脈の手術には高い危険性が予想されました。私たちが手術を躊躇していると、「インテリジェンスのない生活は本人が望んでいません。手術で命を落とす危険性があるとしても手術を受けさせたい」という申し出が奥様からあり手術となりました。結果は、手術は無事成功しました。翌日から、今までの痴呆状態から完全に脱却してしまいました?。痴呆症状の原因検索・手術目的を再考させてくれた患者さんでした。

いずれにしても、おかしい?時は病院にかかり正しい診断を受けてください。

脳の話 #3 頭を冷やせ

「頭を冷やせ!!」 と言われたことはありませんか? 大辞林 第二版によると、血がのぼった頭を冷やす・冷静にするという意味で、「頭を冷やし てもう一度考え直せ」というように説明されています。インターネットで「頭を冷やせ」を検索すると、発熱時の処置として頭を冷やす・寝つきが悪い時の対処 法の一つとして寝る直前に頭を冷やす(頭寒、足熱)・低体温療法がでてきます。
さ て、脳は温かいのでしょうか? 「脳はいつでもホットです!!」これが答えです。
脳 温・直腸温・腋窩温(腋の下で測る体温)という代表的な体温を測定する部位の比較では、脳温が最も高く、脳温>直腸温>腋窩温となっています。腋窩より脳 は1℃も高いのです。脳のエネルギー源は動脈内の酸素・ブドウ糖です。エネルギーが作られるときに熱が発生し、脳温が上昇します。そのまま、脳温が上昇し 続けると神経細胞が死んでしまいますので、冷やすメカニズムが必要です。人間では脳を還流する血液(動脈)がその役目を果たしています。また、頭(頭皮) を冷やしても脳は冷えないことが実験から明らかにされています。勘違いしがちですが、血液は脳を温めているのでなく冷やしているのです。
イン ターネット検索で出た「発熱時の処置として頭を冷やす」ことは意味があるのでしょうか?先ほども書いたように、人間は頭を冷やすだけでは熱は下がりませ ん。頭に氷まくらなどを当てるのは気持ち良いかどうかだけです。本当に下げるためには、太い動脈を冷やすことです。たとえば腋窩・首・股です。それらの部 位には皮膚直下に動脈が走っていますから血液をたやすく冷やすことができる場所なのです。「寝つきが悪い時の対処法の一つとして寝る直前に頭を冷やす」に 関しては、一理あるようですが効果は期待できません。発熱時に頭を冷やすことと同じです。体温と睡眠の研究によると、深部体温(たとえば直腸温)が下降す ると入眠しやすくなり、上昇すると覚醒水準が高くなることは事実です入眠前に毛細血管を通じて体内の熱を外へ逃 がす働きがあります。「赤ちゃんや子供の顔や手足が暖かくなると眠くなったサイン」といわれるのは、このしくみ からです。
脳低 体温療法とはどのようなものでしょうか?脳外科では20年 近く前にトピックとなり、現在では救命救急センター・大学病院レベルの施設では通常に行う治療方法です。低体温には脳保護作用があることがわかり、重症の 脳障害に対して(特に頭部外傷)行っています。できるだけ早く開始した方が効果的です。脳の温度は、冷却マット・ブランケットを使って体全体を冷やすこと により32~33℃に維持します。冷却マットの中に冷水を循環させ,体の表面から冷やして全身の体温を下げます。震えが来ますので全身麻酔と人工呼吸器を 使った調節呼吸が不可欠です。3~7日間維持し、CTなどの画像診断で状態が良くなったと判断したら、2~3日かけてゆっくりと36度に戻します。重症頭 部外傷には、間違いなく有効です。しかし、患者さんの負担・医師看護婦の負担は相当なものです。なんと言っても、数日間も異常な状態(低体温状態)を維持 するわけですから。
脳外 科医はある意味では頭を冷やし(どんなときも冷静沈着)、違う意味では頭を温めながら(体温を上昇させることにより覚醒度を上昇させ不眠不休に耐えている のです)戦っています。分っていただけたでしょうか?

脳の話 #2 既視感 デ・ジャ・ヴュ

「この人と以前どこかで会ったようだけど思い出せない、ここは前に来た事があるようだけれども思い出せない」という経験はありませんか??

これは、deja vu デ・ジャ・ヴュ(既視感)と呼ばれている現象で人間の記憶のメカニズムに深い関連があります。今回は記憶についてお話します。

記憶は、即時記憶、短期記憶長期記憶にわけると理解しやすくなります即時記憶聞くとか・見るなどの五感から入るもので、あっ という間に消えてしまいます。その中でちょっと気にとめたものが短期記憶に入ります。例えば電話をかけている間は電話 番号を覚えているけれど終わったら忘れてしまうのは、即時記憶から短期記憶に入ったけれども注意しないために消えてしまうということです。しかし何回も電話をかけると番号が頭に入ってしまう。 それが長期記憶に入ったということです。即時記憶、短期記憶長期記憶の大きな違いは、記 憶できる情報の量と期間です。即時記憶、短期記憶では再生可能な情報量には限界があります。しかし、 長期記憶では永久的に無限に情報を記憶でき、記憶の貯蔵庫と言われています。記憶に関連する脳の部位 は、即時記憶・短期記憶は海馬、長期記憶は側頭葉、前頭葉、広範な大脳皮質などと言われています。記憶は神経細胞同士のつながりとして保存されています。

記憶は、即時記憶、短期記憶長期記憶にわけると理解しやすくなります即時記憶聞くとか・見るなどの五感から入るもので、あっ という間に消えてしまいます。その中でちょっと気にとめたものが短期記憶に入ります。例えば電話をかけている間は電話 番号を覚えているけれど終わったら忘れてしまうのは、即時記憶から短期記憶に入ったけれども注意しないために消えてしまうということです。しかし何回も電話をかけると番号が頭に入ってしまう。 それが長期記憶に入ったということです。即時記憶、短期記憶と長期記憶の大きな違いは、記 憶できる情報の量と期間です。即時記憶、短期記憶では再生可能な情報量には限界があります。しかし、 長期記憶では永久的に無限に情報を記憶でき、記憶の貯蔵庫と言われています。記憶に関連する脳の部位 は、即時記憶・短期記憶は海馬、長期記憶は側頭葉、前頭葉、広範な大脳皮質などと言われています。記憶は神経細胞同士のつながりとして保存されています。


加齢の影響は、140億個と言われる神経細胞の減少としてあらわれます。神経細胞の減少は20歳を過ぎると始まり、そのスピードは毎日10万個くらいで、300年経つとゼロになってしまいます。減少の程度は前頭葉が最も著しく、海馬の神経細胞の減少は10年に35%といわれています。80歳では若年者と比較すると約2030%の細胞が脱落することになり加齢に伴うゆっくりとした記憶力低下を説明できるかもしれません。尚、加齢に伴う記憶低下の特徴は、即時記憶は比較的保たれますが近時記憶の低下です。

さて、冒頭で述べたdeja vuは、何が原因なのでしょう?本態は一種の錯覚とされています。原因の一つに神経細胞の情報伝達経路の混乱という説があります。何らかのトラブルにより過去の記憶の回路と、現在経験している回路とが結びついてしまい錯覚を起こすというものです。つまり、以前にテレビや雑誌で見た風景が記憶として脳のどこかにあり、たまたまその場所を訪れた時に情報伝達回路の混乱が原因で、見た事があるというだけで「来た事がある」に結びついてしまうのです。その結果、間違った記憶がよみがえってしまうと言うものです。

ここまで読んで記憶のメカニズムがある程度わかったように思いませんか? しかし、実際はまだまだ十分に解明されておらず、たとえば記憶力を良くする方法は誰も知りません。もっともっと複雑なシステムが働いていることは間違いありません。今後の研究に期待しましょう。そして、記憶メカニズムの全貌が早く解明され、記憶力を良くする薬とか、記憶が悪くならない薬ができればよいと思います。

2010年4月19日月曜日

脳の話 #1 基本的知識


    図 1               図 2            図 3

脳の話の第1回です。面白そうな基本的知識をご紹介します。図 1

<この文字を読めますか?(図1)答えはエジプト文字の「脳」です。紀元前1700年の書物に始めて登場しています。その当時は、脳は重要な器官とは考えられていませんでした。ギリシャの哲学者アリストテレスは「知能と思考」は脳ではなく心臓の機能と考えていましたし、古代エジプトではミイラを作る際、他臓器は保存したにもかかわらず、脳は鼻から抜き取り捨てていました。その後、脳こそが知能と思考の源であることが明らかとなりました。

<脳の形態(図2)> これが脳の外観です。乳白色でいわゆる脳のしわが目立ち凸凹しています。脳のしわは脳の進化とともに発達し、脳の表面が織り込まれることでできます。その結果、脳表面積は大きくなり新聞紙1枚分に相当します。哺乳動物の中で進化の程度が低いラットでは脳のしわが少ないそうです。人では頭の良し悪しには無関係で、みんな同じです。硬さは弾力性があり指で押すと少し凹み離すと戻ってきます。お豆腐の柔らかさというよりはマシュマロの柔らかさでしょうか。重さは成人で13001400g、体重の2%を占めるに過ぎません。新生児では350400gでチンパンジーより軽いのです。ちなみに哺乳類で最も大きな脳はくじらで 9000g、最も小さな脳はラットで2gです。脳/体重比は、脳機能とは無関係です(人2%、くじら0.03%、さる1%、小鳥8%)。脳重と才能との相関関係は難しい問題ですが、いわゆる傑出人の脳は一般の平均値より重い傾向にあります。しかし、すぐれた業績を残した人でも平均値より軽いことがあります。

<神経細胞(図2) 脳は神経細胞と神経膠細胞からなっています。神経細胞の数140億個、神経膠細胞はその1050倍ありますがその数により頭のよさが決まるわけではありません。神経細胞の数が140億個といわれれてもピンときませんのでわかりやすくしましょう。1秒に1個づつ数えると、なんと3000年位かかってしまいます。1個づつ並べていくと1000Kmに達します。いかに多くあるかがわかります。これら多数の神経細胞どうしが連絡し合い複雑な情報網を作っているわけで、この回路が頭のよさに関係します。神経細胞の形・その伝達方式は特殊です。その伝達方法は、他の細胞と異なり興奮が電流によって伝わります。その伝達スピードは時速1.8Km432Kmで、神経線維の太さにより異なります。最速の神経は筋肉の運動に関係するもので、400Km超ですから新幹線より速いこととなります。ちなみに、歩行は時速4Km、オリンピック100mランナーは36Km、新幹線は300Km、飛行機が320Kmです。