さ て、脳は温かいのでしょうか? 「脳はいつでもホットです!!」これが答えです。
脳 温・直腸温・腋窩温(腋の下で測る体温)という代表的な体温を測定する部位の比較では、脳温が最も高く、脳温>直腸温>腋窩温となっています。腋窩より脳 は1℃も高いのです。脳のエネルギー源は動脈内の酸素・ブドウ糖です。エネルギーが作られるときに熱が発生し、脳温が上昇します。そのまま、脳温が上昇し 続けると神経細胞が死んでしまいますので、冷やすメカニズムが必要です。人間では脳を還流する血液(動脈)がその役目を果たしています。また、頭(頭皮) を冷やしても脳は冷えないことが実験から明らかにされています。勘違いしがちですが、血液は脳を温めているのでなく冷やしているのです。
イン ターネット検索で出た「発熱時の処置として頭を冷やす」ことは意味があるのでしょうか?先ほども書いたように、人間は頭を冷やすだけでは熱は下がりませ ん。頭に氷まくらなどを当てるのは気持ち良いかどうかだけです。本当に下げるためには、太い動脈を冷やすことです。たとえば腋窩・首・股です。それらの部 位には皮膚直下に動脈が走っていますから血液をたやすく冷やすことができる場所なのです。「寝つきが悪い時の対処法の一つとして寝る直前に頭を冷やす」に 関しては、一理あるようですが効果は期待できません。発熱時に頭を冷やすことと同じです。体温と睡眠の研究によると、深部体温(たとえば直腸温)が下降す ると入眠しやすくなり、上昇すると覚醒水準が高くなることは事実です。入眠前に毛細血管を通じて体内の熱を外へ逃 がす働きがあります。「赤ちゃんや子供の顔や手足が暖かくなると眠くなったサイン」といわれるのは、このしくみ からです。
脳低 体温療法とはどのようなものでしょうか?脳外科では20年 近く前にトピックとなり、現在では救命救急センター・大学病院レベルの施設では通常に行う治療方法です。低体温には脳保護作用があることがわかり、重症の 脳障害に対して(特に頭部外傷)行っています。できるだけ早く開始した方が効果的です。脳の温度は、冷却マット・ブランケットを使って体全体を冷やすこと により32~33℃に維持します。冷却マットの中に冷水を循環させ,体の表面から冷やして全身の体温を下げます。震えが来ますので全身麻酔と人工呼吸器を 使った調節呼吸が不可欠です。3~7日間維持し、CTなどの画像診断で状態が良くなったと判断したら、2~3日かけてゆっくりと36度に戻します。重症頭 部外傷には、間違いなく有効です。しかし、患者さんの負担・医師看護婦の負担は相当なものです。なんと言っても、数日間も異常な状態(低体温状態)を維持 するわけですから。
脳外 科医はある意味では頭を冷やし(どんなときも冷静沈着)、違う意味では頭を温めながら(体温を上昇させることにより覚醒度を上昇させ不眠不休に耐えている のです)戦っています。分っていただけたでしょうか?
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