2010年4月21日水曜日

脳の話 #4 治る痴呆

脳ドックを受けた方から「アルツハイマー病にはなりませんか?」と時々聞かれます。アルツハイマー病は「治らない痴呆」ですから、皆さん恐れているのですね。

ところで「治る痴呆」があることはご存知ですか? 今日は「治る痴呆」についてお話します(表)。

「治る痴呆」を起こす病気 

頭蓋内疾患 慢性硬膜下血腫 ・正常圧水頭症・脳腫瘍・広範な脳血流低下 など

  代謝異常・内分泌異常 甲状腺機能低下症・脱水 など

精神科疾患 うつ病

薬物(副作用) 催眠鎮静薬・抗パーキンソン薬 など

  中毒 慢性アルコル中毒

慢性硬膜下血腫

脳の表面を覆っている硬膜という膜の下に血液がたまり、脳を圧迫します。代表症状は、麻痺・頭痛、吐き気、嘔吐・痴呆症状ですが、高齢者の方は、痴呆症状のみのことがあります。頭を打った後1~2ヶ月してから出ることが多いです。年齢とともに発生頻度が上昇します。局所麻酔で血腫を吸引する手術を受ければ、劇的に改善します。

正常圧水頭症

髄液の吸収不全のため、脳の中にある脳室という部屋が拡大します。その結果、脳が内側から圧迫されます。痴呆・歩行障害・尿失禁が3大症状です。脳外科で髄液短絡術を受けると治ることがあります。

脳腫瘍

 脳腫瘍が原因で人格変化などの痴呆症状が出現することがあります。高齢者の特徴です。手術で治るケースもあります。

広範な脳血流低下

 頚部の頚動脈に強い狭窄があり、脳血流が著明に低下した場合に痴呆症状が出ることがあります。一過性脳虚血(数分で治る脳梗塞)を繰り返し、その後痴呆症状が出ることがあります。狭窄部除去術や、血管のバイパス手術で治ることがあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンが低下すると動作が緩慢になり、精神活動が低下し、痴呆のような状態になります。身体がむくんだり、髪につやが無くなったり、寒がりになったりします。内科の病気です。甲状腺ホルモン剤の投与で改善します。

うつ病

 高齢者のうつ病では、動作が緩慢になり思考が鈍るため、痴呆と紛らわしい状態を示すことがあります。本来は精神科の病気ですが。内科で治療されていることもあります。抗うつ薬による治療で改善可能です。

薬物の副作用

向精神薬、睡眠剤、抗パーキンソン薬など。内科・精神神経科・脳外科から処方されていることが多いです。

慢性アルコル中毒

長期のアルコル依存で、脳が萎縮してしまうことと慢性的ビタミンB群不足、低栄養などが複合して起こります。

高齢者の頭の病気では、痴呆症状が特徴的ですので、私たちは「治る痴呆」を見逃さないように注意しています。見逃せば「治る痴呆」が「治らない痴呆」となってしまいますので、私たちの役目は重大です。低下したインテリジェンスが回復すれば、その後の生活が一層充実することと思いますので。

印象的な患者さんを紹介します。60歳台の男性です。内科から紹介された時は、記憶が悪く痴呆症状が前面に出ていました。経過を奥様から細かく伺うと一過性脳虚血(数分で治る脳梗塞)を繰り返していることがわかりました。いろいろ検査した結果、頚部の頚動脈に強い狭窄がありました。その結果、一過性脳虚血を起こしていただけでなく、長期間に及ぶ広範囲の脳血流低下をが起こり、痴呆症状を呈していました。治療は、手術以外ありませんでしたが、重症の心臓病が元々あり、頚動脈の手術には高い危険性が予想されました。私たちが手術を躊躇していると、「インテリジェンスのない生活は本人が望んでいません。手術で命を落とす危険性があるとしても手術を受けさせたい」という申し出が奥様からあり手術となりました。結果は、手術は無事成功しました。翌日から、今までの痴呆状態から完全に脱却してしまいました?。痴呆症状の原因検索・手術目的を再考させてくれた患者さんでした。

いずれにしても、おかしい?時は病院にかかり正しい診断を受けてください。

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